「請求書に、Tから始まる番号が書いてありますか?」——今週、この一言でお店の利益が変わります。

2026年10月1日より、インボイス未登録業者からの仕入れ控除割合が80%から70%に引き下げられました。本当の脅威は税率変更ではなく「帳簿への書き忘れ」による7倍のペナルティリスクです。本記事では、自店への影響額の試算方法から安全な4ステップの対応策、絶対に踏んではいけない罠までわかりやすく解説します。

「請求書に、Tから始まる番号が書いてありますか」。

今週、この一言でお店の利益が変わります。2026年10月1日から、インボイス未登録の仕入先からの仕入れについて、控除できる割合が 80%から70% に下がりました。控除できなくなった分は、そのままお店の自腹です。

対象になるのは、請求書に登録番号が書かれていない仕入先。個人の農家さん、小さな酒屋さん、おしぼり屋さん。長く付き合ってきた、顔の見える相手であることが多いはずです。

金額そのものは、多くのお店で月に数千円です。慌てる必要はありません。ただし、帳簿に一言書き忘れると、この7倍が上乗せされます。 怖いのは税率の変更ではなく、書き忘れのほうなのです。

この記事では、何が変わったのか、自分のお店はそもそも関係があるのか、いくら増えるのか、紙とペンと電卓でできる4つの手順、そして絶対に踏んではいけない罠2つを、現役で飲食店を経営する立場から解説します。

なお、この記事の目的は値下げ交渉のすすめではありません。 自分のお店の金額を知って、慌てないことです。

目次

1. 何が変わったのか——80%控除の終わりと、70%の始まり

1-1. そもそも「経過措置」とは何だったのか

インボイス制度では、原則として、適格請求書(インボイス)がない仕入れについて仕入税額控除ができません。しかし制度が始まった2023年10月、取引先の多くが免税事業者だった事業者に配慮して、免税事業者などからの仕入れでも、消費税相当額の一部を控除できる経過措置が設けられました。

その割合が、開始から3年間は 80% でした。それが2026年9月30日で終わり、2026年10月1日からは70%になった、というのが今回の話です。

言い換えると、これまで自腹だったのは消費税相当額の20%。10月からは30%が自腹になります。増えたのは10ポイント分です。

1-2. 控除割合は2031年までに段階的にゼロへ

下がるのは今回だけではありません。令和8年度税制改正で経過措置が2年延長され、割合が5段階に緩和されました。全体像は次のとおりです。

期間 控除できる割合 自腹になる割合
2023年10月1日〜2026年9月30日 80% 20%
2026年10月1日〜2028年9月30日 70% 30%
2028年10月1日〜2030年9月30日 50% 50%
2030年10月1日〜2031年9月30日 30% 70%
2031年10月1日以後 経過措置なし(0%) 100%

当初は2026年10月に一気に50%へ下がり、2029年9月で終了する予定でした。それが2年延長され、70%という段階が新しく設けられた形です。結果として、負担の増え方はゆるやかになりましたが、終着点(控除ゼロ)は変わりません。

大事なのは、この表を暗記することではありません。覚えるのは数字ではなく、計算のやり方です。 一度計算の型を作ってしまえば、割合が変わるたびに掛け直すだけで済みます。

1-3. 判定は「納品日」。請求日でも支払日でもない

ここが実務で最初につまずくところです。

80%か70%かの判定は、品物を受け取った日(引き渡しを受けた日) で決まります。清掃や修理のようなサービスは、作業が終わった日で判定します。

  • 請求書の日付ではありません
  • 支払った日でもありません
納品日 控除できる割合
2026年9月30日まで 80%(今までどおり)
2026年10月1日から 70%

1-4. 締め日が月末でないお店は、今週の確認事項があります

納品日で判定するということは、締め日が月の途中の仕入先では、1枚の請求書に前と後が混ざるということです。

たとえば「毎月20日締め」の仕入先の場合、9月21日〜10月20日締めの請求書には、9月30日までの納品(80%控除)と、10月1日からの納品(70%控除)が両方入ります。請求書が2枚に分かれるわけではありません。1枚の請求書を、納品日で2つに分けて計算する必要があります。

締め日が月末でないお店は、今週のうちに経理の担当者と確認してください。ここを見落とすと、10月分の計算が丸ごとずれます。

2. そもそも自分のお店は関係があるのか——先に確かめてください

正直にお伝えします。この経過措置が関係するお店は、思っているより限られています。

2-1. 対象は「本則課税」のお店だけ

この話が関係するのは、仕入れの実額で消費税を計算している本則課税のお店だけです。

簡易課税や2割特例のお店は、売上から一定の割合で計算する方式なので、そもそも仕入れの実額を使いません。70%という数字が出てくる場面がないのです。

つまり、簡易課税や2割特例で申告しているお店は、この記事の手順1〜4をやらなくて構いません。それも立派な答えです。

2-2. だから、最初の一言はこれです

「うちは本則課税ですか、簡易課税ですか」。

顧問税理士に、この一言を聞いてください。これだけで、この先の作業が必要かどうかが決まります。

関係がないと分かれば、時間を1分も使わずに済みます。関係があると分かってから、手順に進んでください。

2-3. 少額特例——1回1万円未満は、はじめから関係ない

本則課税のお店でも、もうひとつ除外があります。少額特例です。

1回の取引が税込1万円未満の仕入れなら、インボイスがなくても、帳簿の保存だけで全額を控除できます。

対象の仕入れ 1回の取引が税込1万円未満
必要なこと 帳簿の保存のみ(インボイス不要)
対象事業者 基準期間の課税売上高1億円以下、または特定期間の課税売上高5,000万円以下
使える期間 2029年9月30日までの仕入れ

判定は1回の取引でします。1つの商品ごとではありません。

この特例があるおかげで、数えるべき相手はぐっと減ります。 個人の農家さんから1回数千円で買う野菜は、はじめから関係がないのです。数えるのは、未登録の仕入先の全部ではありません。1回1万円以上で買っている先だけです。

2-4. 「来年から関係が出てくるお店」がある

ここに時間の罠があります。2割特例は2026年で終わります。

事業形態 2割特例が使える最後 その後
法人 2026年9月30日を含む事業年度 延長措置なし
個人事業主 2026年分 2027年分・2028年分に3割特例

つまり、今年は関係がなくても、来年の申告から関係が出てくるお店があります。 とくに法人には3割特例がないため、2割特例を使っていた法人は、次の事業年度から本則課税か簡易課税のどちらかを選ぶことになります。

今年「関係ない」と確認できたお店も、来年の申告の前にもう一度、顧問税理士に確認してください。

3. いくら増えるのか——月商500万円の焼肉店で試算する

いくら増えるのか 月商500万円の焼肉店で試算する

数字を出します。モデルは、焼肉店60席・月商500万円(年商6,000万円) のお店です。

3-1. 内訳

このお店で、インボイス未登録の先からの仕入れは、食材と消耗品をあわせて 年300万円 でした。

区分 年間の仕入額 税率
食材 200万円 8%
酒・おしぼり 100万円 10%
合計 300万円 –

この300万円に含まれる消費税相当額は、約24万円です。

3-2. 自腹はいくら増えるのか

期間 控除できる割合 自腹(年)
2026年9月30日まで 80% 約4万8千円
2026年10月1日から 70% 約7万2千円
差(負担増) -10% 年 約2万4千円

増えるのは、年で約2万4千円。 月にならすと約2,000円です。客単価6,000円のお店なら、お客様1人分の会計にも届きません。

3-3. ここで、いちばん大事な判断を1つ

この金額は、値下げをお願いしてまで取り返す金額でしょうか。

多くのお店では、答えはノーです。

だから今回の目的は、交渉ではありません。自分のお店の金額を知って、慌てないことです。数字を知らないままだと、必要のない交渉に走ったり、逆に「なんとなく利益が減った」で終わったりします。どちらも損です。

4. 自分のお店の金額を出す4つの手順

やることは4つ。全部、紙とペンと電卓でできます。

  1. ステップ1:仕入先を一覧にして、登録番号のある・なしを分ける(1時間半)
    ・いつ:今週中/誰が:店長かオーナー/使うもの:先月1か月分の請求書と領収書、A4の紙1枚
    A4用紙を1枚用意し、「仕入先の名前」「先月の金額」「番号あり/なし」の3列で書き出します。登録番号(Tから始まる13桁)がない先が対象です。※お酒・ドリンクの仕入先から先に並べると効率的です。
  2. ステップ2:見なくていい先に、二重線を引く
    ・「番号あり」の先 ➔ 二重線で除外
    ・1回の取引が税込1万円未満のもの ➔ 少額特例で全額控除できるため二重線で除外
    ここまでやると、一覧はたいてい数社まで減ります。
  3. ステップ3:年間の仕入額を出して、1%を掛ける(5分)
    残った先の先月金額を12倍し、年間の仕入額を出します。それに1%を掛けます。これが10月から増える概算の負担額です。
    ※正確に出したい場合:8%仕入は「年間額×0.74%」、10%仕入は「年間額×0.909%」で計算します。
  4. ステップ4:10月中に15分、取引先と話す
    聞くことは「インボイスの登録はされているか」「登録のご予定はあるか」の2つだけです。答えを一覧にメモして完了です。

5. 取引先との話し方——ここを間違えると法律の問題になります

5-1. 絶対にやらないでほしいこと

「登録していないから、来月から10%引きで」という一方的な通告です。

公正取引委員会は、ここをはっきり示しています。

  • 再交渉が形だけで、買う側の都合だけで著しく低い価格を決める ➔ 優越的地位の濫用として独占禁止法上問題になるとされています
  • 逆に、相手が課税事業者になったのに、消費税分を話し合わずに値段を据え置く ➔ これも問題になり得ます

つまり、一方的に下げるのも、話し合わずに据え置くのも、どちらも危ういのです。やることは通告ではなく、お互いの数字を正直に見せ合うことです。

5-2. おすすめは「自分の負担額を先に見せる」話し方

台詞も決めておきます。ステップ3で出した自分の金額を、先に相手に見せてください。

「10月から、うちが負担する消費税が、年間でこれだけ増えます。隠したくないのでお見せします。どうするのがお互いに一番いいか、一緒に考えさせてください」

これなら、値下げの押しつけになりません。 相手も、自分の側の事情を話しやすくなります。

5-3. 相手の答えは、だいたい3つに分かれます

相手の答え こちらの対応
「登録します」 値段の話は起きません
「登録しません」 「値段は据え置きでいい」と伝えてください
「考えています」 いつごろ決まるかだけ聞いておきます

どの答えでも、翌日から仕入先を変える必要はありません。

5-4. 一升6,000円の酒を、2千円台で仕入れていた話

全国の有名な地酒を仕入れてくる酒屋さんと、お付き合いしていたことがあります。そこの社長と、仲良くさせてもらっていました。ネットでは一升6,000円を超えるようなお酒を、定価の2千円台で仕入れさせてもらっていたんです。

なぜそんなことができたのか。長く付き合っていたからです。それ以上の理由はありません。

控除が少し減るからといって、こういう仕入先を手放すのは、もったいないと思います。長く付き合ってきた先を1軒失うほうが、年2万4千円よりも、よほど高くつきます。

6. 罠2つ——いちばん怖いのは税率ではありません

罠2つ いちばん怖いのは税率ではありません

6-1. 罠その1:帳簿に一言書き忘れると、控除がゼロになる

色が今回いちばん怖い話です。この経過措置を使うには、2つの保存が必要です。

  1. 免税事業者から受け取る請求書を保存すること
  2. 帳簿に「この経過措置の適用を受ける課税仕入れである」と分かる記載をすること

ここが抜けると、経過措置そのものが使えません。

どれくらい痛いのか

控除がゼロになると、上乗せされる自腹は、今回の増え方の7倍です。先ほどのモデル店でいえば、今回の増え方が年約2万4千円。書き忘れて控除がゼロになると、さらに約17万円増えます。年2万4千円の話に慌てている間に、7倍の事故が足元にあるのです。

帳簿の書き方(2パターン)

  • パターンA(取引ごとに書く):摘要欄に「野菜 免税事業者からの仕入れ」のように書き添える。
  • パターンB(記号でまとめて示す):摘要欄に「※」などを付け、帳簿末尾に「※は免税事業者からの仕入れ(経過措置の適用を受ける課税仕入れ)」と1行入れる。

帳簿やレジの摘要に「80%控除対象」と打っているお店は、10月1日の納品分から「70%」に直してください。事前に顧問税理士へ「10月から何をどう書けばいいですか」と一言確認しておきましょう。

6-2. 罠その2:対象かどうかを先に確かめないと、全部が無駄な手間になる

この話が関係するのは本則課税のお店だけで、簡易課税や2割特例のお店には70%という数字が出てきません。先に「うちは本則課税ですか」を聞かずに手順1から始めると、作業が無駄になります。

7. 業態別の補正——お酒の多いお店は、金額が大きく出ます

▼ 居酒屋
個人の酒屋さんや小さな蔵元からの仕入れが多いほど、影響が大きくなります。お酒は軽減税率ではなく10%なので食材より効きます。お酒の仕入先を真っ先に確認しましょう。

▼ カフェ
個人焙煎所や農家さんからの直接仕入れが多く対象になりやすいですが、1回1万円未満に収まることが多いため、少額特例で除外できる場合がほとんどです。

▼ ラーメン店
食材は問屋(登録済み)が多いですが、おしぼり・清掃・修繕などの単発業者が未登録で残るケースがあります。食材以外の領収書も必ずチェックしてください。

8. この先、何が起きるのか——2031年にゼロになる日

未登録先からの仕入れ年300万円(消費税相当額 約24万円)のモデル店で、今後の推移を見てみます。

期間 控除割合 モデル店の自腹(年) 今との差
〜2026年9月30日 80% 約4万8千円 —
2026年10月1日〜 70% 約7万2千円 +約2万4千円
2031年10月1日以後 0% 約24万円 +約19万円

2031年10月に控除がゼロになると、今より年 約19万円増えます。客単価6,000円のお店なら、お客様約32人分です。計算の型を作り、割合が変わるたびに数字を入れ替えられるよう準備しておきましょう。

よくある質問(FAQ)

Q. うちは簡易課税です。何もしなくていいですか?

A. この経過措置については、やることはありません。70%という数字が出てこないためです。ただし課税方式は変更できるものなので、次の申告の前に顧問税理士に確認してください。

Q. 未登録の仕入家に、登録をお願いしてもいいですか?

A. 「登録のご予定はありますか」と聞くのは問題ありません。ただし、登録を強要したり、登録しないことを理由に一方的に値段を下げたりすることは避けてください。

Q. 相手が「登録しません」と言いました。値段を下げてもらうべきですか?

A. 「値段は据え置きでいい」と伝えるのが基本です。一方的な減額の通告は独占禁止法上問題になり得ますし、年約2万4千円の負担に対して良好な取引関係を失うリスクの方が大きくなります。

Q. 1回の取引が1万円未満かどうかは、どう数えますか?

A. 1回の取引の合計金額(税込)で判定します。商品1つごとではありません。

Q. 締め日が20日の仕入先の請求書は、どう処理しますか?

A. 請求書は1枚のまま、納品日で分けて9月30日までの納品分は80%、10月1日からの納品分は70%で計算します。

Q. 帳簿の書き方を間違えたら、どうなりますか?

A. 経過措置が使えず、控除がゼロ(モデル店でさらに約17万円増)になります。事前に顧問税理士へ書き方を確認してください。

Q. いつまでに何をすればいいですか?

A. ①税理士へ「本則課税か」確認 ➔ ②仕入先の一覧化(1時間半) ➔ ③年間仕入額×1%で金額算出 ➔ ④10月中に取引先と確認、の順番で進めましょう。

まとめ

  • 2026年10月1日から控除割合が70%へ引き下げ:2031年にはゼロになります。
  • 判定は「納品日」:締め日が月途中の場合は明細日付で分割計算が必要です。
  • 本則課税のお店のみ対象:簡易課税や2割特例、1回1万円未満の取引(少額特例)は対象外です。
  • 負担増の目安は「年間仕入額 × 1%」:モデル店では年約2万4千円程度です。
  • 最大の罠は「帳簿の書き忘れ」:記載漏れがあると控除ゼロになり、負担が7倍に膨らみます。

今週、先月の請求書を全部並べて、Tから始まる番号があるかどうかで分けるところから始めてみてください。

※本記事の内容・数字は2026年9月時点の情報に基づく一般的な解説・目安です。
※課税方式の判定、少額特例の適用、帳簿の記載方法等は、必ず顧問税理士にご確認ください。
※取引先との価格交渉については、公正取引委員会のガイドライン(独占禁止法・優越的地位の濫用防止)をご確認ください。

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