「原価率が上がるから、セットはやめておこう」。

この判断が、いちばんもったいないところです。

飲食店の利益改善策を205個すべて書き出して採点したところ、「セット販売をする」は85.5点のS評価で、上位に入りました。かかるお金は0円。メニューに1行書き足すか、手書きのPOPを1枚貼るだけです。

セット販売は、原価率が上がるのに、利益は増える売り方です。

見るべきなのは原価率ではなく、1皿の利益の金額です。この記事では、なぜそうなるのかという仕組みから、先週の伝票でできる3ステップ、やりがちな2つの罠までを、現役で飲食店を経営する立場からお伝えします。

目次

1. 採点の内訳——メニューに1行足すだけで、1皿の利益が上乗せされます

まず点数の中身からお見せします。

  • インパクト8点:1品で終わる料理や余りがちな品ごとにセットを作れ、作るたびに1皿の利益が上乗せされる
  • コスト10点:かかるお金は0円。メニューに1行書き足すか、手書きのPOPを1枚貼るだけ。満点
  • 時間7点:1か月目に出数を数えて売れない組み合わせを入れ替え、2か月目に売れる形が定着する

枝でいうと「利益を増やす → 売上を上げる → 客単価を上げる → 商品価格を上げる」。前回のコース・飲み放題(84点・9位タイ)と同じ枝で、理屈も同じです。

2. 原価率が上がっても、利益が増える仕組み

2-1. まず、いちばん小さな数字で

お店には、ふつうは1品しか頼まれない料理があります。そこに、あと少しの品を付けて召し上がっていただく。これがセット販売です。

原価100円の品があるとします。

値段 原価 原価率 利益
単品で売る 300円 100円 33.3% 200円
セットで付ける 200円 100円 50.0% 100円

単品より100円安いので、お客様にはとてもお得に見えます。

その品の原価率は50.0%。単品なら33.3%ですから、見た目の原価率は上がります。

それでも、利益は100円増えています。 もともと1品しか頼まれなかったところに、プラスアルファが付いたからです。

2-2. ドリンクバーも、同じ仕組みです

前回の飲み放題の回と同じで、ドリンクバーもこの仕組みです。

ふつうは1杯しか飲まないお客様に、1.5杯分くらいの料金でドリンクバーをお出しします。2杯飲んでいただいても、2杯分の原価は1.5杯分の料金よりずっと安い。だから、お店の利益が上がります。

2-3. 焼肉店で計算します

仮に、上カルビが単品で1,500円、原価600円とします。ここにキムチとナムルを付けたセットを作ります。どちらも原価100円で、セットではそれぞれ200円で付けます。

値段 原価 原価率 1皿の利益
上カルビ 単品 1,500円 600円 40.0% 900円
上カルビ セット 1,900円 800円 42.1% 1,100円

原価率は2.1ポイント上がりました。でも、1皿の利益は200円増えています。

キムチもナムルも、仕込み済みのものを小皿に盛るだけなので、手間はほとんど増えません。

2-4. 居酒屋で学んだこと

私が居酒屋をやっていたころの話です。

居酒屋には、種類をたくさん召し上がりたいお客様が多いんです。 だから、珍味3点セットや、お刺身3点セットが、非常によく売れました。

ただ、丸の魚が入ってきて、多くなりすぎたお刺身は、単品で売っても、なかなか売れません。

そこで、そのお刺身をメインにして、あと2品を付ける売り方にしました。単価を上げて、かなりの量が売れるようになったんです。

居酒屋時代には、もうひとつ学んだことがあります。量を少し削って、たくさんの商品を頼みやすくする。それが逆に、お客様へのサービスになるんです。

2-5. 「単品では出ない品」をメインにすると、利益はまるごと上乗せ

この型を焼肉店に当てはめます。仮に、単品ではあまり出ない部位が1,200円、原価480円だとします。

これにキムチとナムルを付けて1,600円。原価は680円、原価率は42.5%で、1皿の利益は920円です。

単品では出なかった品なので、このセットの利益は、まるごと上乗せになります。 ロスも一緒に減ります。

3. セットを組む3ステップ

道具は、先週の伝票とペン、電卓、それにメニュー表だけです。

ステップ1:次の月曜の営業前に、先週の伝票からセットのメインを探す

店長が先週1週間分の伝票を集めて、品名ごとに正の字で出数を数えます。

見るのは2つです。

  1. 頼まれるときはいつも1皿だけの品
  2. 仕入れが多くなって余りがちな品

それぞれ3つずつ、紙に書き出します。 これがセットのメインの候補です。

焼肉店なら、1組で2皿、3皿と追加される品はメインに向きません。テーブルに1皿だけ頼まれて、取り分けて終わる品を選びます。

ステップ2:メイン1品に、あと2品を付けて、値段を決める

付ける2品の条件は2つです。

  1. 仕込み済みで、小皿に盛るだけで出せること。 ピークの時間に、厨房の手を止めないためです
  2. 単品ではあまり出ていないこと。 理由は、このあとの罠でお話しします

値付けのルールは2行です。

メインは、単品の値段のまま。

付ける品は、原価の2倍。(原価100円なら200円)

最後に電卓で、2つの数字を出します。①原価率 ②1皿の利益です。

原価率が上がっていても、1皿の利益が単品より増えていれば合格です。

付ける2品は、盛る量も決めておきます。 仮に、キムチ30グラム、ナムル30グラム。量を紙に書いて、厨房の盛り付け台の前に貼ってください。 量がぶれると、原価もぶれるからです。

メニューには、単品の値段のすぐ横に書き足します。

「プラス400円で、キムチとナムルが付くセットにできます」

ホールのスタッフは、そのメインの注文を受けたときに、「セットにもできます」と一言添えます。

ホールの一言は、短いほど通ります

セットが出るかどうかの半分は、注文を受けたときの一言で決まります。長い説明は要りません。

「セットにもできます。キムチとナムルが付いて、プラス400円です」

これだけです。ポイントは3つ。

  1. 「セットにもできます」から入る。 商品名から入ると、説明が長くなります
  2. 付く品の名前を言う。 「お得です」では伝わりません。何が付くかが知りたいからです
  3. 最後に金額。 先に金額を言うと、高いか安いかの判断から始まってしまいます

この一言を全員が同じ形で言えるようにするのが、ステップ2の最後の仕上げです。朝礼で1回読み合わせるだけで足ります。

ステップ3:2週間、セットと単品の出数を数えて比べる

毎日の営業後に、店長がセットと単品の出数を、正の字で数えます。

2週間たったら、1皿の利益に出数を掛けて、単品だけだったころと比べます。

たとえば2週間で、上カルビがセットで20皿、単品で10皿出たとします。

計算 利益
セット導入後の2週間 1,100円×20皿 + 900円×10皿 3万1,000円
始める前の2週間(単品30皿) 900円×30皿 2万7,000円

4,000円増えています。

セットのほうが利益が多ければ残す。出ていなければ、付ける2品を入れ替えて、もう2週間測ります。

あわせて、1組あたりのお会計も見てください。セットが出ているのにお会計が下がっていたら、ほかの料理がセットに置き換わっただけのサインです。

時間の目安

1週間分の伝票から、品名ごとに正の字で出数を数えると、2時間かかります。注文が品名ごとに自動で集計される環境なら、1分です。まずは伝票とペンから始めましょう。

4. やりがちな2つの罠

罠1:原価率だけを見て、セットをやめてしまう

月末に原価率を見ると、セットを始めた月は少し上がります。 上カルビのセットなら、40.0%が42.1%です。

お店全体の原価率も少し上がりますが、利益の額は増えています。

ここで「原価率が上がったから、やめよう」と決めてしまうのが、一番もったいない判断です。

見るのは、原価率ではなく利益の金額です。

月の原価率を見るときは、セットの分を分けて計算してください。 セットを除いた原価率が変わっていなければ、ほかの料理は崩れていません。

罠2:よく出ている品を、セットで安くしてしまう

たとえば、単品で毎日よく出ている300円のサイドがあるとします。原価は100円、利益は200円です。

これをセットに200円で付けると、利益は100円。単品で頼むつもりだったお客様にまで、100円安く売ることになります。

利益
よく出る単品(300円・原価100円) 200円
それをセットに200円で付ける 100円(1皿100円の損)

だから、付ける品は、単品ではあまり出ていない品から選びます。

セットの目的は、もともと1品しか頼まれなかったところに、プラスアルファを付けていただくことです。

セットは、値引きではありません

セットは、値引きではありません。種類をたくさん食べたいお客様の気持ちに、メニューの形を合わせる売り方です。

お客様は、いろいろな味を楽しめる。お店は、1皿の利益が増える。両方がうれしい形を作りましょう。

5. 業態別の補正

居酒屋

セット販売が一番効く業態です。種類をたくさん食べたいお客様が多いので、珍味やお刺身の3点盛りから始めてください。余りがちな魚をメインにすれば、ロスも一緒に減らせます。

カフェ

ドリンクとケーキのセットが基本です。ドリンクは原価が低いので、セットで値段を下げて見せても、1回のお会計の利益は増えます。ランチのドリンクセットも同じ考え方です。

ラーメン店

ラーメンに餃子や半ライスを付けるセットです。1杯で帰るお客様に、プラスアルファを付けていただけます。

焼肉店

肉の単品にキムチやナムル。 ランチをやっているお店なら、ライスとスープを付けた定食の形も、同じ考え方です。

6. 値付けの早見表

「原価の2倍」で付けたときに、1皿の利益がどう動くかを並べておきます。メインは1,500円・原価600円(利益900円)の場合です。

付ける2品の原価 セットの追加料金 セットの値段 原価率 1皿の利益 単品との差
各50円(計100円) +200円 1,700円 41.2% 1,000円 +100円
各100円(計200円) +400円 1,900円 42.1% 1,100円 +200円
各150円(計300円) +600円 2,100円 42.9% 1,200円 +300円
各200円(計400円) +800円 2,300円 43.5% 1,300円 +400円

原価率はどれも40%台の前半に収まり、1皿の利益は付ける品の原価と同じだけ増えます。

ただし、追加料金が大きくなるほど「セットにしようかな」と思っていただける率は下がります。最初は+400円前後から試して、出数で判断してください。

7. セットの組み合わせ例

「どう組めばいいか分からない」という方のために、型を並べておきます。原価は仮の数字なので、ご自身の請求書に置き換えてください。

業態 メイン(1品で終わる/余りがちな品) 付ける2品 追加料金の目安
焼肉店 肉の単品(上カルビ・出にくい部位) キムチ・ナムル +400円
居酒屋 多くなりすぎたお刺身 珍味2種 +400〜600円
カフェ ケーキ ドリンク・小さなアイス +300〜400円
ラーメン店 ラーメン 餃子3個・半ライス +300円
定食・ランチ メインの料理 ライス・スープ +200〜300円
和食 焼き魚 小鉢・お新香 +300円

共通しているのは、付ける2品が「仕込み済みで、小皿に盛るだけ」であることです。ここを守れば、ピークの厨房は止まりません。

やってはいけない組み合わせ

  • メインも付ける品も、どちらもよく出ている → 罠2そのものです。単品で売れていたものを安く売るだけになります
  • 付ける品に、火を使う料理を入れる → ピークに提供が遅れます。「提供時間の遅いメニュー」の回でお話ししたとおり、遅い1品はテーブルの流れを止めます
  • 3品以上を付ける → お客様が中身を覚えられず、注文のときの説明も長くなります。メイン1品+2品までにしてください

8. 1か月目と2か月目にやること

時間7点の内訳は、定着までの2か月です。やることは月ごとに違います。

1か月目:数えて、入れ替える

  • 毎日の営業後に、セットと単品の出数を正の字で数える
  • 2週間ごとに、1皿の利益×出数で前と比べる
  • 出ていない組み合わせは、付ける2品を入れ替える(メインは変えません)
  • 1組あたりのお会計を確認する

1か月目は、当てにいく時期ではなく、外れを外す時期です。 3つ作ったうち1つ残れば十分です。

2か月目:形を固めて、増やす

  • 残った組み合わせを、メニューに正式に印刷する(それまでは手書きのPOPで十分)
  • 盛る量を紙に書いて、厨房の盛り付け台に貼る
  • ホールの一言を、全員が同じ言い方でできるようにする
  • 余裕が出たら、メインをもう1品増やす

2か月目にやることは、増やすことより「ぶれなくすること」です。 盛る量がぶれると、せっかく出した原価率も利益も当てになりません。

9. よくある質問

Q. 原価率が上がると、税理士さんや銀行に説明しにくくないですか。

A. セットの分を分けて計算した表を用意しておけば説明できます。「セットを除いた原価率は変わっていない」「セットの分は1皿の利益が増えている」の2行で足ります。

Q. 付ける品が思いつきません。

A. 仕込み済みで、小皿に盛るだけで出せるものを厨房に聞いてください。キムチ、ナムル、お新香、小鉢。すでに仕込んでいるものの中にあります。

Q. セットばかり出て、単品が出なくなりませんか。

A. それで構いません。1皿の利益が増えているからです。 ただし、1組あたりのお会計が下がっていたら話は別です。ステップ3で必ず確認してください。

Q. メニューを作り直す予算がありません。

A. 手書きのPOPを1枚貼るだけで始められます。メニューの作り直しは、出数が定着してからで間に合います。

Q. 何から始めればいいですか。

A. 次の月曜の営業前に、先週の伝票を見て、1品しか頼まれない料理を3つ、紙に書き出してください。 セットを組むのは、その後で間に合います。

まとめ:判断は、原価率ではなく1皿の利益で

要点を3つにまとめます。

  • 原価率は上がっても、利益は増える。 原価100円の品を単品300円ではなくセット200円で付ければ、原価率は50.0%でも利益は100円の上乗せ
  • メイン1品にあと2品。付ける品は原価の2倍で値付けする。 メインは単品の値段のまま
  • 判断は原価率ではなく、1皿の利益と出数で。 1組あたりのお会計もあわせて見る

明日の1歩はこれだけです。次の月曜の営業前に、先週の伝票を見て、1品しか頼まれない料理を3つ、紙に書き出してください。

原価率の数字が上がると、誰でも不安になります。でも、見ていただきたいのは利益の金額です。お客様が喜んで頼んでくださり、1皿の利益が増えていれば、それで合格です。

セットが1つ出るたびに、お客様は1品多く楽しめます。お店は、1皿の利益が増えます。

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